■ 京都弁護士会:拘禁刑における作業・指導の義務付け等に反対する会長声明(2022年5月2日)
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■ 刑法等改正法案に反対しよう!侮辱罪重罰化までくっつけた一括・スピード審議を許すな!
4月21日、衆議院で「刑法等の一部を改正する法律案」の審議が始まり5月19日に衆院を通過。参議院での審議が行われます。
刑法等改正案は、3年半にわたる審議(2020年10月に答申)を経て、刑法・刑事訴訟法・被収容者処遇法・更生保護法などの刑事法を「再犯防止」を軸に大改悪を狙う法案です。これにネット上での誹謗中傷によってTV出演者が自殺するという痛ましい事件を口実に、たった2回の審議で2021年10月に出された答申に基づいて作られた侮辱罪の重罰化法案をむりやりに一本化したいわゆる「まとめ法案」です。
①禁錮刑を廃止し懲役刑に一本化した上で「拘禁刑」とし、拘禁した上で、「作業」(強制労働)とともに「指導」(矯正ー人格改造プログラム)を「改善更生」のための刑罰とする、②裁判官が保護観察付き執行猶予判決を出しやすいようにし、③民間の更生保護施設や地域を動員して保護観察制度を強化する、④処遇の決定・実施について「被害者・家族等の心情」を反映させるなどなど刑事法の大規模かつ重大な変更であり、各条文をチェックするだけでもかなりの時間を要します。これに、⑤ネット上のみならず、広範に言論を規制・弾圧しようという非常に危険な「侮辱罪」の重罰化が加わっています。少なくとも、①~④と⑤は別個に審議すべきですが、政府・与党は、一括審議、スピード審議で成立を目論んでいます(侮辱罪法案については成立ー公布の20日後に施行するとしています)。
刑法等改正案は、戦争・治安国家体制づくりを目論むものであり、その成立を許してはいけません!皆さん、反対の声を上げてください!!
■ 「改正」の根拠:「再犯防止対策が必要・重要」??
今回政府が「刑法等の一部を改正する法律案」の必要性として挙げているのが「再犯防止対策」の「必要性・重要性」。しかし、その根拠はありません。
政府・与党・法務省が言っているのは上記の通り。受刑者は「初入者が大幅に減少している。再入者の減少は小幅に留まっている」ということのみです。初犯での受刑者は大幅に減っている…再犯者も減っているけど再犯者は減り幅が少ない」というのです。
こんなことは、100年以上変えていなかった刑罰制度の変更を含め刑事法全体を大きく変える根拠にはなりません。
私たちはこの国の刑罰制度・刑事政策を変えるべきでない、と言っているわけではありません。国際的な人権条約・規約に基づき是正すべきです。政府は、今回、「再犯防止」などといって、人権上問題があると大きく批判されてきた刑罰制度・刑事政策を居直り、全く時代に逆行するかたちで改悪しようとしてるのです。
■ 閉じ込める刑罰が自由刑…
刑務所に閉じ込める刑(=刑罰)を「自由刑」と言います。日本で、この「自由刑」に当る刑罰は、一応…現在、懲役刑と禁錮刑の2つがあります。懲役刑は閉じ込め「作業」(刑務作業)を行わせる刑、禁錮刑はただ閉じ込める刑です。 ※ 受刑者全体の99%以上が懲役。
「一応」と言ったのは……懲役刑は「自由刑は閉じ込めること以上であってはならない」とする国際的な刑罰原則(マンデラ・ルールズ)に反しており、「作業」は強制労働廃止条約が禁止する強制労働に当るとして国連人権規約委員会や国際労働機関(ILO)が、日本政府に対し懲役刑の廃止を求めているからです。国際的には「懲役刑」は「自由刑」とは言えません。ILOは、基本条約であるのに日本が批准していない強制労働廃止条約について、「懲役刑」廃止など国内法を是正し批准するよう求めています。
そもそも、日本の刑務所では、受刑者に対し生活全般にわたって軍隊のような規律を強いています。刑務所(監獄)では受刑者についてはすべて「処遇」(=取り扱い)とされており権利はないがしろにされています。受刑者は人間扱いされていないのです。これらは、国際的に批判され続けています。
■「拘禁刑」ってなに?= 強制労働 + 人格改造プログラム 誰のための「改善更生」か?
今回の「刑法等改正法案」では、刑事法の全体に「改善更生を図るため」ということを書き込もうとしています。
現在、「懲役刑」では「拘置し(閉じ込めて)作業を行わせる」としています。被収容者処遇法(※旧:監獄法)では、「作業」は“刑罰として行わせる”「矯正処遇」となっています。懲役刑の受刑者が、病気などの正当な理由がなく「作業」を拒否すると、刑務所としては、刑罰が行われないことになるので「懲罰」を科します。狭い懲罰房(独居房)に入れ、ずっと―じっと正座(もしくはあぐら)をさせる―これは虐待です!―懲罰房は“刑務所の中の刑務所”といわれています。
被収容者処遇法において、刑罰でない「矯正処遇」として「指導」(教科指導、改善指導)があります。現在は刑罰ではないので、拒否してもただちに「懲罰」ということにはならない―というのが建前ですが、実質的に強制されています。受刑者が、刑務官の指示に対して意見を言うこと、拒否することは「抗弁」として規則で禁止されており、「やりたくないです」などと言ったら「抗弁したな!」として懲罰されるかも知れないので実際は逆らえないのです。
これまで、政府・法務省は、“作業は矯正処遇であって労働ではない”などと詭弁を弄し居直ってきました。法案では【懲らしめ】のための【労役】の【刑】…聞こえの悪い【懲役刑】の名称を、【拘禁刑】に変更しようというのです。しかし、「拘禁刑」は国際的刑罰原則・人権条約違反を居直るものです。
政府・法務省は、今回、禁錮刑を廃止して懲役刑に一本化し、「作業」だけでなく、これまで被収容者処遇法で「矯正処遇」とされていた「指導」も刑罰として格上げ・明記しようとしているのです。
「懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる(刑法12条の2)」から、「拘禁刑は刑事施設に拘置する(刑法12条の2)」と「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる(同条の3)」として「拘置」(閉じ込め)と「作業」・「指導」を条文として切り離しました。「作業」・「指導」は「改善更生」のため「行わせる(ことができる)」・「行うことができる」となったので“必ずしも強制されない”、“一歩前進した”と評価する意見もあるようです。しかし、刑法に「改善更生(のための刑罰)」などという目的を規定している国はありません。異様な刑法「改正」なのです。
「教科指導」とは学校における授業。「改善指導」とは薬物依存や暴力的な性癖を治すための“矯正プログラム”=人格改造プログラムです。「指導」を刑罰にするというのは、拒否したら「懲罰」するぞ!ということ。人権侵害・人格の否定に他なりません。刑務所に閉じ込め住居や移動の自由を奪う―これだけで十分に厳しい刑罰です。その上、本人の意思を無視しさらに【刑罰として】「作業」をやらせ、人格改造のための「指導」を受けさせる―こんなやり方は受刑者に大きなトラウマを強いるだけです。
こうしたプログラムを“強制しても社会復帰(政府・法務省のいうところの「改善・更生」)のために効果がない”…というのがこれまでに検証された国際的な常識です。結局、「拘禁刑」は社会復帰のための逆効果にしかならないのです。
■ 刑罰としての「作業」は強制労働。本来は“働いて収入を得る権利”として保障されなければならない!!
現在、懲役刑の刑罰である「作業」(刑務作業)は、紛れもない強制労働です。新設される「拘禁刑」でも「作業」を刑罰として存置します。
世界の刑務所でも、受刑者は労働をしています。しかし、やる、やらないは自由。労働は“働いて収入を得る権利”であって刑罰として強制されるものではありません。刑務所は、受刑者に対して“働いて収入を得る権利”を保障するために獄外を含めて仕事を確保し、受刑者は獄の外で働き収入を得ているのです。犯罪を侵した監獄の中の人々も社会の一員であり、社会復帰に結びつけるためにも“閉じ込めること”以外はなるべくその「外」の世界と同じようにしよう…というのが世界各国の刑罰制度の大きな流れなのです。
現在、日本の刑務所の「作業」(労働時間:1日最大8時間(厳守)、残業なし、土日祝休み)で、10の「等工」(ランク)があるようです。素行が良いとランクが上がっていくピラミッド構造で、【月】に8百数十円(10等工:最下位)~2万数千円(1等工:最上位)の「作業報奨金」が貰えるというようなことになっているようです。一応時給に換算すると【最低が7円/時間】~【最高が90円/時間】!!…です。言うまでもありません。これは、奴隷労働というほかありません。こんなことを5年~10年も強制されたら、多くの受刑者は労働-賃金の権利の感覚が麻痺し、社会の常識を失ってしまいます。間違いなく社会復帰の障壁になります。
「被収容者処遇法」はあくまで「閉じ込める」側に立って収容者・受刑者の刑務所内での生活のすべてを「処遇」=取り扱いとして定めており、また、刑罰―矯正処遇として強制労働・奴隷労働を行わせています。
日本政府・法務省は「刑務所内の受刑者の『作業』は、矯正処遇(教育)であって強制労働ではない」などと居直っています。しかし、強制労働廃止条約は「教育」を含めたいかなる目的でも強制労働をさせてはならないとしています。日本政府・法務省は、受刑者を人と思っていないのです。
政府・法務省がやろうとしている「拘禁刑」の新設…刑罰制度の大改変は、国際的な批判を居直り、時代に逆行する無茶苦茶な刑事法政策です。本来、刑罰としての強制労働・奴隷労働を廃止し、被収容者の「権利」については「処遇」(取り扱い)ではなく「権利」としてきちんと分け、「作業」=労働は、刑罰ではなく、受刑者が「働いて収入を得る権利」とすべきであり、最低賃金法を適用すべきです。
■ 深刻な刑務所での受刑者の高齢化問題…少年院に行くはずだった18~19歳も刑務所に来る
現在、刑務所内の受刑者の多くが高齢になっています。健康な受刑者に対して、認知症になり、あるいは障害を抱え車いす生活になった高齢者・障害者の受刑者の介助を「作業」として行わせています。刑務所はさながら高齢者施設のようになっているのです。こうした高齢者にも作業を行わせないと刑罰が成就しないので形式的に全く意味のない「作業」を行わせています。今回の刑事法「改正」には…障害や高齢で作業が無理な受刑者に、「改善更生のため」に“ならない”として作業をさせなくてもいいようにする―という意図があるのは確かでしょう。
しかし、結局は、やらせるのもやらせないのも刑務所長の裁量。そもそも刑罰としての作業―強制労働は廃止すべきです。刑罰=矯正処遇として受刑者に刑務所(監獄)の運営の一旦を担わせるなど論外です。
「改正少年法」が今年2022年4月1日に施行され、これまで少年院に入ったはずの18~19歳が受刑者として刑務所に入ることになります。彼らには「作業」はさせず「指導」をしようということでなのでしょう。
私の子供は授業を拒否し勉強しない…勉強しないのなら部屋に閉じ込めてずっと正座させるぞ!…と脅して勉強をさせよう…強制であってもなんでも勉強すれば本人のためになるのだ…本人はわかっていないだけだ…。
日本政府・法務省がやろうとしていることはこういうことです。こんな考え方に賛同する方はいま…いるでしょうか?信じがたい愚策です。
■ 受刑者に必要なのは【刑罰】ではなく【支援】である
【※筆者は研究者などではないのでとりあえず出典は載せません。気になった人は自分で調べてください】
もう、20年以上前の話です。某刑務所の所長が全ての受刑者に個人面談をしました。その結果、(1)受刑者のほとんどは普通の人々である。(2)受刑者に必要なのは、刑罰ではなく生活のための支援である…というふうに述べました。その通りだと思います。
現在、「ノーマライゼーション」、「ハームリダクション」という言葉が使われるようになっています。
「ノーマライゼーション」とは、障害者を他の人々(健常者)と同じように“社会の一員”として位置付け、きちんと権利を保障する(できる)社会にしようという意味で用いられていますが、「犯罪者」や「受刑者」についても同様に「ノーマライゼーション」を軸に考えるべきだというのが国際的な潮流です。
「ハームリダクション」とは、「犯罪」とされていたことを“犯罪でなくする“ということです。
例えば、ポルトガルでは「麻薬・薬物の単純所持・使用」を「犯罪」から外し「ハームリダクション」しました。現在、彼の地では、麻薬・薬物の単純所持・使用で逮捕されたり罰せられたりすることはありません。客観的な調査の結果・検証に基づき、麻薬・薬物の使用者・依存者に対して刑罰を与えても本人にとっても社会にとっても意味がない…とこれまでの刑事政策を反省したのです。彼ら・彼女らが薬物使用などを巡って問題を抱えている際に必要なのは福祉・医療的な支援であると答えを出したのです。他のEUの多くの国でも、薬物の単純所持・自己使用を刑事罰の対象外にする動きが進んでいます。「ライト・ドラッグ」は売店で買えます。タバコと同じです。 ※ 「ライト・ドラッグ」を非合法化してしまうと裏市場で取引が行われ、かつ心身に害悪を与える危険な混ぜ物を加えた粗悪品が出回ります。それより、きちんと製造管理された「ライト・ドラッグ」が正規に販売されるほうが良いのです。
米国でも“大麻(マリファナ)はタバコや酒と同じ嗜好品の範疇である”として、カリフォルニア州をはじめ多くの州で大麻の使用を合法化しています。※大麻とタバコを比べたら、タバコのほうが健康に大きな害を与えるというのが世界的な常識です。
一方、日本では、女性の受刑者の約4割が、大麻の「所持」、その他の薬物の「所持・使用」で服役しています。EUや米国であれば逮捕されることも罰せられることもない女性が、日本では閉じ込められ、強制労働・奴隷労働を強いられているのです。
「薬物」を使用していた…と発覚した芸能人を徹底的にバッシングする…こんなことを続け、いまでもやっている日本のマスコミの罪は重い。本当に、どこまで世界の状況を知らないのか?あえて無視するのか?信じられません!
「再犯防止」、「安心・安全な社会の実現のために」などとして、国際的な流れと真逆な刑事政策・社会政策を続け、「改善更生」しようとしない者に対して刑罰・処遇を重くしようというのが日本政府の方向性です。
日本は、死刑を存置し執行していることを含め、その刑罰制度、刑事政策はまったく世界から孤絶していています。ひどすぎるのです。
■TOPIC :強制労働廃止条約批准のための法案…2021年の通常国会で成立
2021年の通常国会で「強制労働廃止条約批准のための法案」が成立しました。2019年2月1日に発効した日-EU経済連携協定(EPA)において、ILO基本条約(8条約)の批准について努力する旨の規定があり、基本条約のうち日本が批准していない「強制労働廃止条約(ILO第105号条約」を批准するための法律案…で、国家公務員法などで公務員等の政治活動、ストライキなどに対して規定されている刑事罰の「懲役刑」をすべて「禁錮刑」に変更するというものです。
そもそも、ILOは日本政府に対して、公務員についてストライキ権を含め労働三権を保障するよう求めており、公務員等のスト・政治活動への制裁としての「懲役刑」を「禁錮刑」に変更しろなどとは求めていません。ILO基本条約を批准しようというなら刑事罰規定を廃止しなければならないのです。国連人権規約委員会は「強制労働廃止条約」の「強制労働」に当たる「懲役刑」を廃止し同条約を批准するよう勧告(社会権規約委員会:日本に対する第3 回総括所見-14)しています。
刑法等改正案では、「禁錮刑」を廃止し「懲役刑」に一本化し「拘禁刑」と呼称を変更しようとしている。とりあえず、公務員等のスト・政治活動への制裁としての「懲役刑」を全部「禁錮刑」に変更し強制労働廃止条約を批准して…禁錮刑を廃止し懲役刑に一本化し「拘禁刑」にしようということ。これはあからさまな詐欺行為だ!まったくフザケルにもほどがある!
■ 保護観察…その中身は、再犯防止を謳う更生保護法で定められている
保護観察には、上の図のように、主に4つの類型があります。刑務所などの施設に閉じ込めないので、刑罰ではないとされていますが、守るべきこと(遵守事項)によって自由が制限される処分です。
遵守事項には、一般遵守事項と特別遵守事項というのがあり、それを破ったら…懲罰的な処分(不良処分)が科される場合があります。閉じ込めないけど社会の中で監視するというのが
保護観察です。
■ 保護観察を拡大・強化:遵守事項の矯正プログラムを民間にやらせる!
「拘禁刑」で新たな刑罰にしようという「指導」=矯正プログラムに対応しているのが保護観察における特別遵守事項です。
法案では、(民間の)更生保護施設などが行っている、“社会復帰のための支援プログラム”の受講を新たに特別遵守事項として追加しようとしています。
多くの人々にとって縁遠く知られていませんが…更生保護施設は、少年院を仮退院した少年や刑務所から仮釈放された受刑者などが宿泊・生活する施設であり、実際に社会に復帰できるよう支援する民間の施設です。
少年院や刑務所に入ることになってしまった少年や受刑者の多くは、経済的に恵まれず、家族との関係もむずかしく、社会からも孤立するなど困窮のなかで他の人との信頼関係を築くことができず、非行や犯罪に至っています。
当事者と施設の職員との信頼関係は社会復帰のために最も重要でしょう。そうした施設で行われている、“当事者本人の意思でやりましょう”というプログラム(=サービス)が、保護観察の遵守事項として強制され、施設の職員に保護観察=社会防衛のための監視の役割を担わせようというのです。これでは、信頼関係は創れません。
更生保護施設の多くは小規模で経営基盤も脆弱。そこで働く労働者の賃金・待遇も低く留まっています。
執行猶予付の保護観察などの末端を担っているのは、“無償の国家公務員”=ボランティアの「保護司」です。現在、その成り手が少なくなり保護観察制度そのものの存続が危ぶまれています。
政府・法務省がやろうとしているのは、社会復帰のためにまともなお金も出さず民間(ボランティア)任せにしてきたことを居直り、少年や受刑者・執行猶予対象者の「社会復帰」のために地道に取り組んできた人々を社会防衛=治安対策の一翼として取り込もうということです。
社会復帰を望んでいる当事者の気持ちや意見などまったく無視されているのは明らかです。
■ 改善更生のために被害者(家族)の心情を理解させ反省させる…医療観察制度の「内省プログラム」では多数の自殺者が出ている
今回の法案では、監獄の矯正処遇、保護観察の指導監督、少年院の矯正教育など刑事制度のあらゆる場面で「改善更生」のために当事者に「被害者等の心情」を理解させ反省させようという条文を織り込もうとしています。
しかし、それはむしろ加害者にとっても被害者にとっても逆効果を生むのではないでしょうか?
“再び同様の行為を行うことがないように”、「手厚い医療」を行うという医療観察制度で行われている「内省プログラム」。本人に反省を迫るこの「内省プログラム」によって多くの自殺者が出ています。
加害者が自死して、被害者の心が安らぐのでしょうか?
「加害者」となった人が社会復帰を果たし…生活や心の安寧を得たとき、彼・彼女らは始めて自分が過去に行った行為を自覚し被害者ときちんと向き合うことができるのではないのでしょうか?
被害者への精神的な支援・経済的支援などの制度を充実させることは必要です。しかし、被害者や家族の心情を「聴取」し、閉じ込められあるいは自由を制限されている「加害者」に反省を求めることを国家が行うことは、そうした支援とは無縁のことです。
「反省してないようだから厳しい処遇をしてほしい」などという意見を聴取し、国家が「加害者」にそれを「伝達」し「被害者のことを考えて反省しなさい」などというのは、被害者の感情を一次的・表面的にやわらげるというだけではないでしょうか?「加害者」にトラウマを植え付けるだけではないでしょうか?国家・行政による被害者への支援制度が貧弱な状況を糊塗しようというものではないでしょうか?
被害者と加害者との「和解」。それは簡単に叶うものではありません。そうした問題について、刑事法そのものに書き込むべきなのか?というのは基本的かつ重大な問題であり十分な議論が必要なはずです。
スピード審議を許してはいけません。刑法等改正案の成立を許してはいけません。
■ 監視対象の拡大:保護観察付の執行猶予判決を出しやすいようにする
保護観察の仮解除の決定 → 現場に移管 再犯での執行猶予判決 → 対象を拡大
刑事裁判を経て、(現在の)懲役・禁錮に該当する罪とされても初犯や軽い罪である場合には執行猶予付きの判決になる場合が多いです。執行猶予には、単なる執行猶予と保護観察付き執行猶予があります。執行猶予期間に再度(禁固以上の)犯罪を犯すと執行猶予は取り消され(実刑)刑務所に入れられます。
法案には、保護観察になっても仮解除がされやすくする、執行猶予期間中に再び犯罪を犯した場合でも2年以下の刑期の判決であれば再度執行猶予付き判決にできるようにする…など、保護観察や刑罰を軽くするかのような法改正も提起されています。
しかし、実は…裁判官が保護観察付き執行猶予の判決を出しやすくするためのものです。「裁判官、どんどん保護観察付き執行猶予判決を出してください。大丈夫。現場でふるいにかけ、仮解除しますから、改善更生しようという者、素行の良い者に大きな負担はかけません」というようなわけです。
いままで単なる執行猶予で済んでいた人(=「犯罪者」)も保護観察付きの判決によって監視の網の目にかけようということなのです。
■ 重罰化:執行猶予期間が延々と延ばされて初犯が実刑になる!
現在、執行猶予期間中に再び犯罪を犯しても(再犯)、再犯の判決が確定した時点で執行猶予期間が終わっていればその執行猶予が取り消されることはありません。
法案では、執行猶予期間中に再犯し起訴されたら、執行猶予を延長し(効力継続期間)、再犯の判決が確定したら初犯の執行猶予を取り消して実刑にすることができるように改正するよう提起しています。明らかな重罰化ですが、なぜ変更する必要があるのか(立法事実)は明らかにされていません。
効力継続期間は前段の執行猶予期間とまったく同じ執行猶予の身分です(改正:刑法27条)。そうすると以下のようなことが起こりえます。
上の図で【再犯】の裁判が続き、【初犯】の執行猶予の効力継続期間中に交通事故(これも再犯)で罰金刑となった場合です。執行猶予取消の要件は「罰金以上」です。普通は罰金で執行猶予が取り消されることはないようです。しかし、この事故が「医者から眠くなる薬を処方され、服用後2時間は車の運転はするなと言われていたのに、飲んですぐに運転し事故を起こした。物損で済んだが大事故になった可能性もある。自分のことしか考えてない。悪質だ」として【初犯】の執行猶予が取り消され、刑務所に収監されて受刑することになりました。しかし、その後、【初犯】の執行猶予の効力継続期間の根拠となった【再犯】は無罪判決となりました。
こういう場合、どうなるのでしょうか?
もし、遡って【初犯】の刑(刑の言渡し)が取り消され(交通事故の罰金刑による執行猶予取消も取り消され【??】)、釈放されたとしても刑務所に入れられ自由を奪われた事実、生活が破壊された事実は消えません。法案ではこうした事例が想定されているのでしょうか?国がなんらかの補償をしてくれるのでしょうか?手続として違法でないと一蹴されるのではないでしょうか?
※上の図のように「全部執行猶予」の場合、執行猶予期間が終了すると「刑の言渡し」自体がなかったものとされる
法案が成立すると、こうしたまったく理不尽なことが起こるかも知れません。
■ 更生緊急保護の対象・期間を拡大:起訴等処分保留者から~満期出所者までを切れ目なく監視
保護観察所は、不起訴処分になった者や満期出所者など刑事手続で刑事施設に閉じ込められて、そこから出た後に帰る場所がない人などを対象に「更生緊急保護」を行っています。更生保護施設で宿泊・食事などを提供し、住居・医療・就職などの支援を行い「改善更生を保護する」というもの。
更生保護法改正案では、保護観察所と連携し、(検察官が)処分保留の段階から勾留中の被疑者に、また(刑務所長が)出所前の受刑者に、本人の「意思に反しない」場合、更生緊急保護の手続を行うことができることができるようにする(対象者の前倒し・拡大)。また、保護の最大期間1年を2年に延長する(金品の給与・貸与、宿泊の提供は従前通り最大1年)。
「意思がある」ではなく「意思に反しない」場合というのがミソ。刑事手続の始まりから刑務所の出所後まで切れ目なく囲い込んで監視しようということです。
法制審では当初、検察官が起訴猶予の条件として保護観察同様の処遇を受けさせる、あるいは、満期間近で仮出所する受刑者に十分な保護観察期間を確保するため刑期を延長する(明らかな保安処分!)などという案もありました(いづれも途中で引っ込めたものの、満期出所者の問題については答申で「今後の課題」とされた)。
政府・法務省が、今回の更生緊急保護の対象・期間の拡大を本格的な保安処分の入口として位置付けていることは明らかです。
再犯防止のため??の刑罰制度の大改変、刑事法の大改悪…必要なのでしょうか?間違って犯罪を犯してしまったら、徹底的な人格改造と監視…そんな社会イヤです!
安倍政権は、アベノミクスで株主を肥やしただけ。モリ・カケ・サクラのスキャンダル追及が続くなか、新型コロナ対策も無為・無策。目玉のオリンピック開催も危うくなり…戦後最長政権の記録を更新したら辞任。政治の私物化と安保法制(戦争法)や共謀罪の成立=戦争のできる国家創りのための戦争・治安立法を強行し、最後は逃げたのです。
菅政権は、安倍政権の政策を踏襲。入管法「改正」案はウシュマさん事件を巡って取り下げたものの、少年法改正法案、新型コロナ措置法改正案、デジタル改革関連法案、重要土地規制法案、国民投票法改正法案などの稀代の悪法の成立を強行しました。同政権は、オリンピック開催を強行!新型コロナのコロナ感染再拡大で医療体制が崩壊。支持率は回復せず、菅氏は首相を辞任。岸田政権は、ウクライナ戦争を契機に東アジアの危機を煽り、「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」などと言い換え(???…言い換えにもなっていない)、大軍拡を推し進め、改憲を実現しようとしています。
現在、終息するのか否か?「新型コロナ感染」によって生活を脅かされています。多く人々が大きな不安を抱え、私たちの社会が抱えている格差や差別・貧困問題の深刻な状況があからさまになっていますが、放置されています。ウクライナ戦争によってさらに先の見通せない不安な世の中になっています。私たちはいまこそ、冷静に現在の社会の状況を見つめ、将来の社会のあるべき姿を想像・模索しなければなりません。
被害者の「心情」を理解させて「改善更生」させる―こんな刑事法「改正」をいますべきなのでしょうか? 衆参たった数回の審議で…。
多くの人にとって、監獄の中の受刑者や、保護観察によって自由を制限される人々は縁遠い存在なのかも知れません…しかし、いま一度考えてみましょう。彼ら・彼女らに人権が保障なされない社会は、良い社会なのでしょうか?
「監獄を見ればその国の文化水準がわかる」と、各国の刑務所を訪れたチャップリン。彼の発想はいまこそ大事なものであると思います。
格差や差別・貧困問題をおざなりにし、国家の権力を強め、戦争・治安体制を作ることは何の問題解決にもなりません。刑罰制度の大改変、刑事法改悪をやるべきではない!言論・表現を広範囲に規制・弾圧する侮辱罪の重罰化を含め、刑法等改正法案の成立を許してはいけません!
と反対の声を上げてください!
刑法・少年法に異議あり!緊急アクション
Mail:action@keihoh.org
■連絡先:救援連絡センター
東京都港区新橋2-8-16石田ビル5階
TEL:03-3591-1301